2014年3月15日土曜日

遅刻ホワイトデー

書く書く詐欺もここに極まれり。
ていうかここしばらく私爆睡しすぎだとおもうんだ……食っちゃ寝生活というのを見事に体現している。だって外に出たくないんだもん何もしたくないんだもんよくそおおおおおお。
でも健康です。めっちゃお腹空きます。

そういえば昨日、注文したことすら忘れていた小説が密林から届いてて、開けた瞬間ひゃっっほうううううと叫びました。
ネット小説出発……とはまったくもって思えない「辺境の老騎士」という小説です。これが……もう、これが。小説家になろうの異世界トリップやらMMOトリップやら乙女ゲートリップやらといった大人気ジャンルを押しのけて、純粋なファンタジー小説としてじわじわと人気を獲得してきているのです、よ……!!
これ、とっても読みやすいのですが、ジャンルとしてはラノベに分類できるのだろうか? ってほど読者層幅広く押さえてる作風だと思うのです。
なにより書籍化されたことで加筆された部分……おい飯テロじゃ。この本飯テロじゃ!!!
叫ぶほどに、美味しそうな食べ物描写が。それと進行する物語の、老騎士視点のギャップが。とくに戦闘シーンのギャップが。やばい。
今でも小説家になろうでは、書籍化後も珍しく本文が残っているので、無料で第一話から読むことができます。これ、おすすめですよーーー! おじいちゃんマジかっこいい。



そんなこんなで。
結局一日遅刻した、ホワイトデー小説を一本、書き上がったものだけぽろっと投下していきます。






ステージ1:ST


 まだうっすらと吐く息が白く染まる季節。しかし雪が舞うこともめっきりなくなり、日差しの柔らかさからもうすぐ春が訪れるのだろうと思わせる空を見上げて、ティルーナは笑みを深めた。

「やっと寒ーいのが終わりますねー」
「そうだな、慣れてはいるが、やっぱり寒いよりは暑いほうがまだなんぼか我慢できる」

 彼女の独り言に、せっせとリビングのテーブルで作業をしていたガイルが手を動かしながら答えた。彼の手にはとろりと輝く水飴の入った器とはけ、そして色鮮やかなフルーツが盛り合わせられた完成間近のタルトだった。
 水飴にひたされたはけが丁寧に動く度、きらきらと輝きを増すそれを見て、ティルーナはじゅるりとよだれを垂らした。ガイルはちらりとも視線を寄こさずに気配を察し、釘を刺す。

「そのよだれとっととしまえ。我慢できねぇならこれは肉屋のおっちゃん行きだ」
「どうしてあえてそこへ持ち込むんですかー!?」
「いや、あそこでちょいちょい俺もやらかしてるからな……詫びだと言うことで、おっちゃんも確か甘いもの好きだし」
「ガイルさんの手作りタルト、他の人になんかあげたくないですよ絶対だめですよ!? 我慢しますから後生ですううう!」
「…………わあったから、手元狂うから離れろっての」

 悲壮感たっぷりの表情を浮かべて窓際からにじりより、服の裾を掴んできたティルーナを見下ろしてガイルはため息をついた。
 と、そこへ賑やかな音を立てて玄関扉が開かれる。そこからひょっこりと、なにやら大きな包みを抱えたステントラが入ってきた。

「おおおおお素敵なものが出来上がってるじゃんかー! こりゃシャンパン買って正解だなあ」
「……まさかと思いますけどー、その包みの中全部お酒じゃないです?」
「いやいやいやホワイトデーのお返しにお酒だけって、ルーちゃんに喧嘩売ってるだけでしょーが」

 ぱたぱたと片手を顔の前で振りながら答えたステントラは、椅子の上に包みを置くといそいそと開いた。中にはステントラが言っていた通り、微細な泡が見える細身のシャンパンボトルと、丁寧に包装された正方形のプレゼント箱だった。薄い青の包み紙に黄に近いオレンジ色のリボンが巻かれていて、どちらも自分の色だと気付いたティルーナはそっぽを向いてステントラをこづいた。

「挙動が怪しすぎるくせに、格好つけすぎですようステントラさんってばー」
「ええー、いいじゃんこれ。わざわざシェンズまで行って吟味してきたんだぜ。ガイルのリクエストも取り入れつつさ」

 壊れ物でも入っているのか、慎重にプレゼント箱を持ち上げてティルーナに差し出すステントラは、ゴーグルで隠れていても分かるほどに明るい笑みを浮かべた。

「普段は町の奴らからもらうばっかりだったティルーナが、俺たちにもわざわざ手作りチョコくれたんだもんな! これはもうお返し奮発するしかないっしょ。なあガイル?」
「…………まあ、な」

 つい一月前にあったバレンタインでは、年々町を巡ってチョコレートを大人たちからせしめていたティルーナがなぜかバー・アクセントへ通い、同居人であるガイルとステントラ宛てに手作りチョコ菓子を作ってきた。
 食べる専門であろうと思われていた彼女からまさかもらえると思っておらず、逆にお菓子を用意していた二人もこれには仰天した。最終的にはガイルの作ったチョコレートパイと、ステントラが買ってきた砂糖菓子詰め合わせと交換という形でイベントは終わったが、せっかくだからと去年まではしたことのなかったホワイトデーもやることとなった。
 ちなみにティルーナ手製のチョコ菓子は、ガイルには少量のビターチョコでデコレーションしたクッキー、ステントラには洋酒をふんだんに使ったトリュフというなかなかな難易度のものだった(アデレーナの指導のたまものらしい)。どちらもきっちり二人の腹に収まっている。

「さーて、ガイルのお返しも完成しそうなことだし? ルーちゃんそれ開けてみなよ」
「ま、なんだかんだでセンスは悪くないからな、お前」
「ガイルくんまで俺のこと低評価だったわけ……?」
「はいはーい、ちゃっちゃと開けて、タルトゲットですー!」

 俺のプレゼント軽くない!? と叫ぶステントラに背を向けて、ティルーナは箱を開けてみる。中に収まっていたのは薄い黄色のガラスを加工したアクセサリー一式で、花束をモチーフにしたブローチと指輪、ネックレス、髪留めだった。

「……へえ、やっぱまあまあいいもんじゃねえか」
「でしょー? ルーちゃんの髪とかにもしっくりくるだろうしさ! まあ一気に全部つけるとじゃらーってなるから、一日一個ずつとかで慣れてくみたいな? てかティルーナってアクセサリーとか持ってなかったし」

 上からのぞき込んできたガイルとステントラの声にびくりとしながらも、ティルーナは箱の中からそっとネックレスを取り出した。

「……ガイルさん、今これつけてください!」
「はあ? 今かよ……ちょっと待て、手ぇ洗ってくる」
「俺がつけてあげよっかー? って、わかってるわかってる、だから距離を取らないで心が痛い」

 それから、タルトを完成させてすべて片付けたガイルは、ステントラの見守る中ティルーナへネックレスをつけてやった。ティルーナは背を向けっぱなしだったため、彼女の頬が普段よりも赤みがかっていることに二人とも気付くことはなかった。

「えへへー、似合います?」
「良いかんじ良いかんじ! やっぱり俺の目に狂いはなし、だな!」
「似合ってる、てわけでタルト食うか。ちょうど昼過ぎだしな」
「「待ってました!」ですう!」

 そうして迎えた初めてのホワイトデーのお茶会、三人はこれ以上無く穏やかな時間を過ごしていった。





多分、時系列としてはいろいろと騒動が終わったあとのバレンタイン&ホワイトデーだと思います。
結構平穏に暮らしてるんですね、彼らも。そんなにどったんばったんなイメージが沸いてきませんでした。

では、次はまた別のところのホワイトデーでも……三月中に書けるかな……。

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